大腸内視鏡、観察・手術時の注意点

大腸内視鏡、観察・手術時の注意点

大腸内視鏡は挿入も大切ですが、観察を丁寧に行うことの方がより大切です。
私の大腸内視鏡の際に注意している点を挙げてみました。

【観察時の注意点】
なるべく高画質のファイバーを用いる。できれはハイビジョンで。
抜去時はファイバーの硬度を(0にして)柔らかくして
鎮痙剤としてはブスコパンを可能な限り用いる。緑内障の場合、正常眼圧と分かっている際は用いる。半筒(10mg)ずつ用いる。体格によって2筒(40mg)までは使用する。第二選択として、グルカゴンを男性のみで使用している。女性では悪心、嘔吐を高頻度に発生するため使用しない。第三選択としてミントオイルを使用している。
観察時は苦痛をほとんど伴わないため、sedationは追加しない。むしろ、呼吸が浅くなっている場合は、早めにリバースを始める。
体位は観察部位(スコープ先端)が上部になるようにし、余分なエアーを吸引しながら、抜去していく。盲腸~右側横行結腸は左側臥位。横行結腸中央は仰臥位。左側横行結腸~近位S状結腸は右側臥位。S状結腸中央は仰臥位。遠位S状結腸~直腸は左側臥位。
盲腸は気泡が多いため水で洗浄を行い、その後に必ずインジゴを撒く。(黒皮症の場合を除く。)盲腸は扁平病変の発生頻度が高い。
S状結腸は短縮されていることが多いためゆっくりと丁寧に。時にプッシュもしてみた方が良い。往時に見つけたポリープはプッシュ時にしか見つからないことも多々ある。
襞が深いときは、スコープでめくる。鋭角の屈曲部の内側はファイバーで抑えて観察する。
生検はLST等では浅めに行う。

〈微小病変を発見するためのテクニック〉
便等の残渣は水でまめに洗浄をする。水は水道水にガスコンを少量加えている。50mlのシリンジを用いる。
インジゴをまめに撒く;少しでも病変があることを疑ったら、必ず撒く。一回の大腸内視鏡で、20回位は撒きます。10mlのシリンジで3ml程のインジゴを吸い、エアーを5ml程余分に吸い、インジゴをエアーで押すような形で撒く。ただし、大腸黒皮症のある患者はインジゴを撒かないでよい;腺腫は白色調に見える。
間違え探しをするように観察する。画面からあまり視点を外さない。シリンジなどは介助者に用意させ手渡しをさせている。血管の走行をバックグランドしてとらえる;盲点を探すように観察する。色調の変化にも注意する;ポリープはオレンジ色である。血管の見えないところには扁平疾患が隠れていることがある。便の付着しているところには扁平疾患がよく発見される。

【手術時の注意点】
ホットバイオプシー
深くつかまない。
つかむ時は全開ではなく、半開で行う。
通電は最小限で。
EMR
ムコアップは少量(0.1ml)ずつ注入する。うまく注入できれば0.5ml程で十分挙上可能である。
穿刺針を深く挿入しすぎると粘膜がうまく挙上しないため、浅めに穿刺する。
スネアワイヤーは一度で思うようにかからない場合、まずは大きめにかけ、ポリープ手前か奥が大きめになるわけだが、それぞれポリープの辺縁に合わせてスネアを縮めていく。
クリップ
脱落しないよう、深すぎないように適度の深さでかける。
等間隔、同じ深さで縫縮

当院の術後の食事について

大腸内視鏡時に、ポリープ切除を行った際、術後に食事制限を行っております。
色々なパターンがありますが、当院では下記のように行っております。
事前にご確認ください。

手術当日から、術後1日目より
流動食を食べて下さい。
流動食とはゼリー(ヴィダーインゼリー等)、ヨーグルト、プリン、玉子どうふ、重湯、ところてん、チーズなどです。
水分は多目に飲んで下さい。
お茶、ジュース、スープ、牛乳はOKです(野菜ジュースやポタージュもOKです)。

術後1~2日目より
おかゆ、うどん、おじや、ぞうずい、食パンなどを食べて下さい。
卵入り、梅干しはOKです。
ようかん、お団子、カステラ、バームクーヘン、蒸しパン、パンケーキ、あんまんもOKです。
水分は多目に飲んで下さい。

術後1~3日目より
通常食を食べて下さい。
ただし、術後1週間は油っこいもの、肉類、刺激物は禁止です。
また、アルコールも禁止です。

ピロリ菌について(2011年1月追記)

【感染について】
ピロリ菌の感染者は国内で約6000万人に達する。年配者に多く、60歳以上では約6割が感染し、10歳では、約1割にとどまっていると推定される。上下水道の整備が進み、衛生状態が改善したことが、年齢により罹患率の差があることの要因として考えられている。保菌者とキスをしたり同じ鍋をつついたりしても成人の場合は感染しないと言われている。しかし、胃や免疫の機能が未発達である乳幼児は注意が必要だ。以前、コラムに鍋感染の可能性は低いと述べましたが、大分状況が変わってきました。(院長コラム・「ピロリ菌について」ご参照下さい。)
「げっぷで胃のピロリ菌が口に出てくることがある。その時に子供に口移しで食物を与えると、感染する可能性はあるが、うがいでほとんどが防げる。」と国立国際医療研究センター国府台病院院長(消化器内科)・上村直実先生は言われておられる。

【症状について】
ピロリ菌はアンモニアなど毒素を出すため、胃粘膜が炎症を起こして胃炎になる。自覚症状がないが、慢性胃炎を経て2~5%が胃潰瘍に、0.2~0.5%が胃がんになるとされる。慢性胃炎から胃潰瘍などになる仕組みはよく分かっていないが、胃壁が薄くなる「萎縮性胃炎」になると、胃がんになるリスクが高まる。炎症が進み、胃粘膜が腸化する「化生性胃炎」になるとさらにリスクは高くなる。
「薄くなった胃壁を修復しようと正常細胞が再生される過程で遺伝子に傷がつき、がん化すると考えられる。」と杏林大消化器内科教授・高橋信一先生は説明されておられる。

【検査】
胃がんを防ぐには、早期にピロリ菌の感染の有無を確認し除菌することが重要である。ただし、胃がんになる危険性はピロリ菌検査だけでは必ずしも正確に調べることはできないため、胃の萎縮の有無や程度を直接内視鏡にて調べるか、血液検査であるぺプシノゲン法を用い間接的に調べることも大切である。
ピロリ菌検査で陽性でも萎縮が軽度であれば、胃がんの発症リスクはさほど高くない。逆に、ピロリ菌検査が陰性でも萎縮の程度が強く、腸上皮化生をきたしていれば、リスクはかなり高くなり、1年以内に胃がんを発症する確率は1~2%にものぼる。ピロリ菌が生息できないほど萎縮が進んでいると考えられるからだ。
癌研有明病院顧問で日本胃がん予知・診断・治療研究機構理事長の三木一正先生がピロリ菌検査とペプシノゲン法を併用することが胃がんの予防に有用であると述べておられます。ペプシノゲン法は保険適応がありませんが、内視鏡をやるかのスクリーニング検査としては非常に有用であると考えます。

受診者における医師の割合

当院の受診者は病院からの紹介、既来院者からの紹介、インターネットでホームページを閲覧して来院する方が多いです。
その中で、受診者における医師、看護師の割合は多いです。特に、医師は、健康、医療に関してのエキスパートです。そのような先生方から、評価を頂いているということは大変光栄なことです。
引き続き、高い評価を頂けるよう、研鑽して参りたいと存じます。

アスピリンにがん予防効果あり

2010年12月の英医学雑誌Lancet電子版に発表されました。
長期のアスピリンの服用が大腸を始めその他多くのがんにかかるリスクを減らすことが示唆されていましたが、この研究ではそのことを証明しました。
研究は循環器などに疾患がある患者約2万5千人を対象に調査している。アスピリンを長期に服用した群と、服用しなかった群のがんによる死亡率を比較したところ、アスピリンを5年以上服用した群のがんによる死亡率は、服用しなかった群に比べ21%低かった。特に、大腸がん、食道がんなどの消化器系がんでの死亡率は54%も低く、アスピリンのがん予防効果は高いと発表した。肺がん等他の臓器のがんも、また、腺がんと言われるタイプのがんも死亡率を低下させると報告している。
日本では、脳梗塞、心筋梗塞の予防のために少量のアスピリン(バイアスピリンや小児用バファリン)が使用されておりますが、脳梗塞だけでなく、がんも予防するということですので、今後、脳梗塞、狭心症など動脈硬化のある患者さんには少量アスピリンの積極的な使用が推奨されます。ただし、アスピリンには胃潰瘍の副作用が高頻度に出現するため、ピロリ菌を除菌する、プロトンポンプ阻害薬を併用するなどの工夫が必要です。

私の大腸内視鏡挿入法

大腸内視鏡挿入法に対する考え


内視鏡は消化管の病気を診断し、治療する最強のツールです。
診断については見落としを少なく、早期に病気を発見することが大切。治療は根治を目指し安全に終了することが大切考えます。
また、大腸内視鏡検査で、適切に診断・治療を行うためには、手際良く、患者に負担を少なく、挿入を行うことも次いで重要であると考えます。
私なりに大腸内視鏡挿入法に対する考えをまとめてみようと思います。


大腸内視鏡挿入法全般には患者の要素、つまり、患者の大腸の性質が大きく関与している。
挿入の簡単な患者(短い、伸びない、屈曲部の角度が鈍)
挿入の困難な患者(長い、伸びる、屈曲部の角度が鋭、癒着がある、憩室がある、狭窄している、前処置が不良)


吸引について
液体、固体は可及的に全て吸引する。空気はほぼ全て(壁を吸引しない程度に)吸引する。


最大の難所はSDjunction 。SDjunctionの次の難所が横行結腸、肝彎曲。
SDjunctionを超えるのをスムースにするためには、S状結腸を我慢して脱気しながら、きれいにたたむことが大切。S状結腸の手前のRsも然り。
横行結腸、肝彎曲を超えるのをスムースにするためには、SDjunctionを直線化することが大事。


全ての動作は小さく、ゆっくり、優しくを心掛ける。
S状結腸の進め方は、ファイバーは押さず、アングルとトルクで、たたみながら進められれば最高。


体位変換について
左側臥位でスタート。挿入がスムースな場合、体位変換は不要。挿入困難なケースの場合、下記のようにトライ。
S状結腸からSDjunctionまでは仰臥位、それでもだめなら、右側臥位、さらに腹臥位。
脾彎曲は右側臥位。肝彎曲は右側臥位で困難であれば、仰臥位、左側臥位で。


注水法
私が行っているのは、50mlのシリンジで50ml程の水を注入する方法です。
直腸、S状結腸で水を注入することにより下行結腸の空気をS状結腸側へ移動させ、SDjunctionを鈍化することが可能なことがある。S状結腸の挿入が困難な症例に有効と考えている。


伸びてしまったS状結腸の短縮、SDjunctionの直線化、
右トルクで引きつつ、これ以上引くと抜けてしまいそうなタイミングが来たら、左トルクをかけプッシュするのがこつ。
引いて、押して、引いて、押す。押しすぎは禁物だが、押さなくてはならない時もある。
同じ動作を繰り返すことで前進することもある。(絶対無理のないように)


硬度可変について
硬度0からスタート。体位変換と同様に、挿入がスムースな場合、硬度変更は不要。
操作が困難な時に硬度3とする。抜去観察時は硬度0に戻している。


用手圧迫について
S状結腸が伸びてしまう時に、SDjunctionが直線となるように圧迫する。臍の左側を左下に(骨盤方向へ)、左側腹部やや背側を腹側へ圧迫する

10
深呼吸をする
横行結腸の操作の際有効である。

11
フードについて
最近は使用してます。使った方が、フォールドにひっかけやすいと思います。視野は多少悪くなります。

12
ブスコパンのタイミング
盲腸に到達してから静注しています。

最後に、
挿入法も大事ですが、抜去の際、病変を見落とさないよう、丁寧に観察することが、より大切と考えております。