日本消化器病学会雑誌
2012年1月号より
積極的な除菌による胃がん予防を実行すべき時代に入った
効果的な胃がん予防、新規感染防止のため成人後、就職・結婚などの機会に、早期にピロリ菌検査を行い、感染者には除菌を行うよう勧めるべきである。
消化性潰瘍患者のピロリ菌感染持続群の胃がん発生率が年率0.70%に対し、除菌成功群の胃がん発生率が年率0.23%と有意に低い。
消化性潰瘍で除菌をした患者で、診断後1年以内に除菌をした群と、1年以降に除菌した群では、早期の除菌群が胃がん発生率を低下させる。
ピロリ菌除菌治療による胃がん予防効果は胃粘膜萎縮の進展しない早期の段階で除菌するほど効果的である。解説:ピロリ菌は感染の初期段階では、感染は前庭部が主体で、前庭部胃炎のために高酸状態になり、十二指腸潰瘍が引き起こされる。感染を放置すると感染は胃体部に広がり、胃体部胃炎から、胃潰瘍の発症や、胃がんの発生母地である胃粘膜萎縮が進行すると推察される。胃粘膜萎縮の進展はピロリ菌除菌により阻止することが可能である。早期の除菌が重要であるが、萎縮の進展した段階で除菌治療を行っても、胃粘膜萎縮の進展を防止し改善する可能性はある。
ピロリ菌除菌は感染源の減少による新規感染の防止という意義がある。解説:ピロリ菌非感染者では、胃がんのリスクはほとんどない。胃がんを撲滅するには新たなピロリ菌感染者を減少させるのが良い。そのためには感染源となる保菌者を減少させることが重要。ピロリ菌は経口感染であり、戦後の不衛生的な時期では水系感染による伝搬がおこっていただろう。現在は、上下水道が整備され、衛生環境が整っており、主たる感染ルートは乳幼児時期に、近親者、両親、特に母親からの口口感染と推測されている。感染源となるピロリ菌保菌者を除菌することは、子供への新規感染を防止する意味においても有効である。
ピロリ菌の除菌により胃がんの発生リスクは軽減することは確実であるが、そのリスクは完全に消失するわけではない。除菌成功者においても定期的なフォローアップが不可欠である。